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「映画に学ぶ、惚れる老い方」

編集者・ライター 稲田豊史

 古今東西、今も昔も「高齢者」をテーマにした映画は数多いですが、なかでも特におすすめしたいのは、高齢者が老いを受け止めながらも、過去ではなく「今」に全力で挑んでいる映画です。

 名優モーガン・フリーマンが温厚な自動車整備工を、怪優ジャック・ニコルソンが嫌味な大金持ちを演じた『最高の人生の見つけ方』(2008年・米)は、病院で知り合った余命わずかな老人ふたりが「棺おけリスト(棺桶に入る前にやりたいことリスト)」に書いたことをひとつずつ実行していく物語です。リストの内容は「スカイダイビングをする」「マスタング(アメ車)を乗り回す」「荘厳な景色を見る」「涙が出るほど笑う」など。ふたりはそれらを実行するため、海外へ豪遊の旅に出ます。

 老体に鞭打って「今」を精いっぱい楽しもうとするふたりの老人の姿は、チャーミングでコミカル。その一方、プライベートジェットの中やピラミッドを望む高所、食卓の席などでふたりが交わす会話には、長い人生を歩んできた男二人の人生観が凝縮されていて、滋味に富んでいます。

 しかし、本作の肝は旅先でのレジャーにはありません。実は棺おけリストに挙げたうちのいくつかは、ふたりの帰国後に意外な場面で実行されるのです。人生で一番大切なものとは何か? 映画は観客に優しく問いかけてきます。

 『アイリス・アプフェル!94歳のニューヨーカー』(2015年・米)は、1950年代からインテリアデザイナーとして活動している、ド派手ファッションなばあちゃんのドキュメンタリー。ホワイトハウスの内装を任された経験もあるアイリスは、「毎日同じことを繰り返すくらいなら、いっそ何もしなきゃいい」などと語り、バイタリティあふれる毎日を見せてくれます。

 名だたるファッション誌の編集長やアパレル界の重鎮が彼女を慕う理由は、アイリスがいっときの流行に左右されず、己の感性を信じ、絶対にぶれないからでしょう。誰がなんと言おうと、自分を貫き通すことのカッコよさ。彼女はそれを教えてくれます。さすが「1940年代に初めてジーンズを穿いた女」(本人談)だけのことはあります。

 CGアニメ映画『カールじいさんの空飛ぶ家』(2009年・米)の主人公は、最愛の妻・エリーと死に別れたカール。想い出に浸るだけの毎日を送る頑固な老人です。彼はふとしたきっかけから、家に大量の風船をつけて浮かび上がり、エリーと行く約束をしていた「パラダイス・フォール」という南米の伝説の滝に赴きます。

 エリーとの美しい想い出の日々を描いた感傷的な冒頭10分は号泣必至。しかし本作が真に素晴らしいのは、その後の展開です。カールは冒険の地で、「妻との大切な想い出」と「友人の命」の二択を迫られますが、それはカールが「過去」と「現在」のどちらに生きるのかを選択するということでもありました。

 その際、彼の背中を押してくれたのは、エリーのノートに書き残してあったカール宛ての言葉でした。

Thanks for the adventure. Now go have a new one!
(冒険の日々をありがとう。新しい冒険を始めて!)

 エリーが感謝しているのは、自分との楽しかった夫婦生活、つまり過去。「新しい冒険」とは言うまでもなく、カールの未来のことです。過去にこだわることなく、未来に生きてほしいと書き残した亡き妻。いつも妻が座っていた椅子を見つめ、静かに決断するカール。心に刻まれる名シーンです。

 最後に、日本の作品を紹介しましょう。建築家・津端修一さん(90歳)と英子さん(87歳)夫婦のまったりスローライフを追ったドキュメンタリー『人生フルーツ』(2016年・日)です。津端さんは名だたる団地やニュータウンの建設計画に携わるも、効率と経済性優先の時流に失望し、その反動として自給自足の半農生活に転向した方です。

 驚くのが、津端夫婦の食に対するこだわりです。食卓に並ぶのは、自宅の畑で採れた野菜やフルーツ、懇意にしている店で買う肉や魚。水はすべてミネラルウォーター。出来合いの惣菜やインスタント食品はもちろん、コンビニ食品なんてもってのほか。英子さんがじっくり時間をかけて手間のかかる料理をこしらえ、修一さんがゆっくり食む。なんと優雅な生活でしょうか。

 とてつもなく贅沢な老後です。ある程度の財力と時間がなければ叶わない、超絶的に「ていねいな生活」と言えるでしょう。しかし、そこまで食にこだわる彼らの表情の、穏やかなこと、穏やかなこと! 人生の第二ステージを設計するにあたり、現実に存在する究極の理想形を拝んでおくのも悪くないと思います。
 
 「4本とも最近の映画ばかりじゃないか」とお思いでしょうか。「自分が若い頃には、もっと良い映画がいっぱいあった」とお怒りでしょうか。
 もちろん、古い映画には古い映画の良さがあるでしょう。が、そこで描かれているのは、古い社会でしか通用しないハッピーエンドです。
 今を生きる人間が触れるべきなのは、カビの生えたノスタルジーや過去への執着ではなく、この時代・この社会・この年齢でこそ味わえる人生の醍醐味です。
 過去の名作を愛でるのもよいですが、「今」を生きるため、たまには新しい映画を観てみてはいかがでしょうか。
稲田豊史(いなだ・とよし)・プロフィール

1974年生まれ。編集者・ライター。映画配給会社ギャガ・コミュニケーションズ(現ギャガ)で勤務ののち、キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て、2013年に独立。著書に『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)、『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)。「サイゾー」「SPA!」ほかで執筆するほか、映画関係の連載やコラムを多数発表。